写真の詩
写真の詩
Poetry of a photo
竹林の雪
東京に雪が降った。
積雪となったのは数年ぶりのことである。
朝、竹林の場所に向かうと、静かな里山が青白い雪化粧をしている。
とても寒く感じる外気。
やはり、東京の雪は厄介である。
雪国の雪の朝より寒さを覚えるのはなぜだろうかと。
竹林の中に入ると、日の出前に広がる青い空気に静まり返っている。
竹林の隙間から見える空だけ薄っすらと赤みを
帯びてはいるが、まだ光の届かない鬱蒼とした空気感に
訪れるのが早すぎたと後悔した。
日の出になってもなかなか太陽の明るい光は竹林には差し込んでこない。
やっと、竹林に光のトーンが届いて来たら竹の節に着雪した模様が目立ってきた。
雪のリボンが竹にくるくると巻いているようだ。
自然が作り出したオブジェ。
不思議な模様に感動を覚える。
あたりが暖かな空気になると雪は一気に解けてくる。
空から雪の塊がポトポトと音を立てて落ちてきた。
消えるのも早い雪景色、これが東京の雪である。
2022年1月7日 東京都町田市
鹿が現れる
赤いレンゲツツジが咲く沼に鹿が出没。
雨上がりの夕方に近い時刻、どこからきたのか鹿が現れて水の中に入り始めた。
カモがその鹿の近くを泳いでいたのだが目もくれないでこちらを見ている。
鹿は山の林や道の近くでよく見かけるのだが、水の中に
入った鹿を見るのは初めてのような気がする。
不思議な佇まいである。
鹿が歩くたびに水の波紋が揺れ動いている。
何をしにやってきたのだろうか?
水浴をする気配もなく、岸近くの水中をゆっくりと移動している。
やがて草の岸辺を歩き始めると、今度は何かに驚いたように
猛スピードで走り始めた。
早い! とても早い! 時折ジャンプをする。
また立ち止まり水の中にちょっと入ったが、すぐに岸に
上がり現れた山の方へ走り去っていった。
不思議なひとときに驚き沼の周囲を見渡したが誰もいない。
雨上がりの静けさが作り出した光景。
自然が作り出す珍しい出会いには、いつもドキドキするひとときの風景がある。
2021年6月17日 群馬県前橋市 覚満淵にて
朝の川に立ち昇る
冬枯れの植物や木々はうっすらと霧氷になり
白く薄化粧した川、朝日が昇ると黄金色の光が雪原を照らす。
いままでなにもないように流れていた目の前の川、その川面から
湯を沸かしたときにでる湯気のように、白いもやがどんどんと立ち昇る。
自然が躍動した瞬間である。
強い逆光の輝きが、そこだけスポットの光で強く照らす。
川の水は冷たいはずなのに
なぜ?
そんな問いには見向きもせずに立ち昇るもや。
それが自然さ!
太陽の光はやはり偉大。
太陽が照らさなければ平凡に流れていた川。
自然の生命力は太陽の光で輝きを呼ぶ。
そんな出会いを強く感じた朝であった。
2020年12月24日 長野県白馬村 松川にて
雨が降っているその向こうに虹がかかった。
それも二重の虹。
予想もしなかった雨空に虹のアーチ。
この虹すごいよ。
すべてくっきりと見えている。
こんな驚きの光景も珍しい。
自然の感動はいつも突然やってくる。
それも短い時間だけ。
急いでカメラを構えてシャッターを押す。
私の胸の鼓動を虹は気づくのだろうか。
まだ消えない虹、もっと頑張って!
雨がやんでくると、西から青空がやってきた。
ぐんぐんと変化する空に虹は姿を消し始める。
虹色が淡くなったね。
やがて、あ~あ消えてなくなってしまった。
二重に架かる虹は幸運の前兆だと世界中で言われている。
広がりゆく青空を眺めながら空のドラマに感動していた。
2020年4月23日 東京都多摩川日野橋付近にて
絵のような
絵のような風景。
靄(もや)が流れる菜の花畑の朝。
不揃いの木々の並木、その周りをさまよう白いベール。
今朝の菜の花畑は、前夜の雨のしずくでキラキラと輝いている。
まさに「宝石の煌めき」
ペールトーン(Pale tone)のやさしい春の色がここにある。
2017年4月23日 新潟県福島潟にて
朝の虹
晩秋の気配が漂う高原の朝。
今朝は小雨が降りつけて寒さを感じるほどの気温。
しかも、東の空は雲が多い。
日の出は無理かと思っていたら、雲の隙間から空が広がりを
見せ始めてきた。
やがて見えた朝日はちょっと恥ずかしがり屋さん。
雲の隙間から覗き込むような太陽だ。
そのあとはすぐに元気になって眩しいような光を放ちだした。
枝から葉を落とした山梨の木が、枯れ始めた牧草の上に
シルエットの黒い影を作り出す。
西の方角では虹が現れた。
くすんだ晩秋のカラマツの木々が赤く焼けて虹を支えている。
青空がどんどんと広がり雲を払う。
虹はその速さに戸惑いながらもまだ空に弧を描いている。
清々しい虹というよりは頑固者の虹である。
気まぐれな天気がそんな風景を作ってくれた。
不思議な一期一会の朝であった。
道
黄色い稲穂が実る水田を眺めながらのんびりと走っていると、
突然道の先に海が見えた。
日本海の青い海、水平線と平行に雲がたなびいている。
空に飛び立つ滑走路のようにまっすぐ延びた道。
このまま進むと空に飛びたてるのかな?
一本の曲がって立っている電柱がそんな空想を打ち消してくれる。
今日は穏やかな日和、ワッハハと。
この先にはどんな景色があるの?
進んで見ると道は急激な下り坂。
風景は一転して目の前の視界は広々としていた。
鳥になった気分、空の上から見ているような景色だ。
黄金色の水田、点在している民家、その向こうに雄大な海。
まさに空からの景色。
ず~と眺めていたい風景がそこにあった。
2018年9月19日 秋田県にかほ市象潟にて
白い虹
白い虹が架かった。
1秒後には青空に溶け込むようにすぐ消えた白い虹。
あなたは何者?
朝は一面に立ち込めていた霧が動き始めたのは東の空にぼんやりと太陽が見えてから。
霧の動きは早い。
あっという間に空には青空が広がり、ニッコウキスゲの咲く大地から霧は遠のいて消えてゆく。
最後まで残っていた霧が草地から浮き上がったと思ったら白い虹になった。
夢幻の瞬間。
霧がなくなると夏の太陽が強いコントラストを届けてきた。
今日も暑い日になりそうだ。
2018年7月15日 群馬県野反湖にて
夕焼け
夕焼けの赤い空はいきなり現れた。
すこし前、空を見ていて今日は夕焼けにはならないだろう?
との予測は見事に外れた。
赤いね、雲が焼けているね。
情熱的な空の色は暗闇を作り出す前のまさに舞台のカーテンコール。
華やかな拍手に誘われて出てきたみたいだ。
夕焼けはわずかな時間でも心がときめく。
ず~と見ていたいが赤い色はすぐに色あせる。
消えゆく夕焼け、空はまた静かな時を迎えて暗い光へと変わってゆく。
やがて、月の目立つ漆黒の空になっていった。
長野県志賀高原 2018年7月17日
道
霧の草原に伸びゆく一本の木道。
朝日がぼんやりとした光でその道に誘う。
ひとり立って見つめていると冷気が頬に吹きかかり、
霧の粒がゆるやかに横に波打って流れる。
もしかしたらここは現世とは違う場所かもしれない。
ふとそんな不安を感じてくる。
この木道を歩いて行くとあの空との境では何が見えるだろうか?
ただ見つめていたのは、しんみりとした空気感が歩みを進めることにためらいを感じていたから。
太陽は霧に覆われてはまた鈍く光る。
思い切って一歩踏み出すと、木道がきしむ音で迷いが振り払われた。
さぁ太陽に向かって歩んでゆこう。
山形県月山弥陀ヶ原湿原 2010年8月2日
鳥海湖
東北の名峰、鳥海山にある鳥海湖。
チョウカイアザミやハクサンフウロ、ニッコウキスゲなどの花が咲いている。
草原の傾斜地には白い残雪。
真夏なのに暑さはなく、冷たく感じる風が吹く。
朝は晴れていたのに登ってきたら霧が遠くの山を包み始めた。
山を登ってくる霧の速度は早い。
あっという間に遠くの景色は白く霞んでしまった。
鳥海湖を見下ろす草地には清楚に咲いている花がある。
その彩りに息をのむ。
花の色がとてもきれい!
美しい花に出会えた喜びで登ってきてよかったとしみじみ感じたのです。
山形県鳥海山御浜付近 2011年7月31日